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第33回特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会学術集会
会長 淺井 昭雄 

関西医科大学脳神経外科 主任教授

 
第33回日本脳腫瘍学会学術集会を京都で開催させていただくことを大変光栄に存じます。私が、本学術集会にはじめて参加しましたのは、第6回日光脳腫瘍カンファランス(1988年、河口湖、松谷雅生会長)のときでした。テモゾロミド(TMZ)が登場して以降をニューロオンコロジーの第2次隆盛期と呼ぶならば、当時は第1次隆盛期と呼べる時代でした。グリオブラストーマ(GBM)に対する初めての保険適応の抗がん剤としてACNUが1980年に登場し、適応外の様々な既存の抗がん剤と組み合わせてGBMへの挑戦がおこなわれました。また、放射線治療も全脳照射から拡大局所照射に移行し、原体照射、術中照射、小線源などを用いて局所制御を試みる数々の挑戦がなされました。外照射も90Gyまで増量されました。しかし、結果はご存知のように、まさに変幻自在に再発してくるGBMを制圧することはできませんでした。以後、僅かですが確実にGBMに楔を打ち込むことになるTMZが2006年に登場して第2次隆盛期を迎えるまでに20年近くもの年月を要したわけですが、この間が決して暗黒の時代であったわけではありません。この間にGBMの基礎的あるいは橋渡し的研究がめざましく発展しました。GBMと戦うにはGBMをもっと知らなくてはダメだということで、分子生物学の隆盛とあいまって多くのニューロオンコロジーをこころざす人たち(私もその1人でした)がこの領域の研究に従事しました。故星野孝夫先生のフローサイトメトリーやBUdRをもちいたcell kineticsの研究にはじまり、数々のがん遺伝子やがん抑制遺伝子が発見され、細胞周期やアポトーシスの分子機序が解明され、細胞内のシグナル伝達系の分子機序が解明され、遺伝子治療が試みられ、と様々な挑戦とその検証がなされました。これら個々の挑戦の成功、不成功にかかわらず、これらの知見とノウハウの蓄積により、その後のGBMのwhole genome sequencingが達成され、今後の分子標的治療に有用な知見が多く得られるに至っているのだと思います。この間のがん幹細胞の概念の導入、養子免疫治療にはじまって現在のワクチン治療、モノクローナル抗体治療に至る免疫治療の発展もとても重要な出来事です。依然、GBMは不治の病ではありますが、やっと我々が手にしたTMZによる僅かですが確実なOSの延長は、ひとりの天才による大発見によるものではなく、これまでの私たちの無数の挑戦とその検証をこつこつ積み重ねた結果なのだなとつくづくと感じずにはいられません。ヒトの正常細胞のwhole genome sequencingには何年もの時間を要しましたが、その後、グリオブラストーマのwhole genome sequencingが完了するのはアッと言う間でした。技術の進歩によりこれらの研究のスピードは加速度的に速くなっています。次にさらなるGBMのOSの延長が得られるのに20年どころか10年もかからないかもしれません。本学術集会は、このような皆さんの挑戦とその検証をこつこつ積み上げていく場として活用していただいて、より多くの方々にご発表いただけましたら主催者として無上の喜びであります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

平成27年5月吉日